サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準の見直しについて


 

エイズ動向委員会 

 

1999年1月26日

1 はじめに

  「サーベイランスのためのAIDS診断基準」については、前回1994年(平成6年)の見直し以降、検査手法の改善、治療法の進歩、HIV診療機関の拡大など、医療環境が変化していることから、診断基準改正の必要性の有無を含めた検討を行うことを目的に、エイズ動向委員会の小委員会として「エイズ診断基準の再検討に関する小委員会」が1997年に設置された。 
   また、1999年4月から「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」が廃止され、今後のエイズ対策は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症新法」という。)」に基づいて行われることとなる。この感染症新法では、後天性免疫不全症候群は、四類感染症として、無症状病原体保有者を含め、発生動向を把握して適切な対応をとることとされている。従って、発生動向を正しく把握することの重要性は一層増すこととなるので、より明快な診断基準作りが必要である。
  これまでの小委員会における検討結果を以下のとおり取りまとめ報告する。

  
2  主要検討事項

 以下の諸点を検討し、小委員会としてのコンセンサスが得られた。

(1)診断基準への追加を考慮した事項
   1)CD4陽性Tリンパ球数
    CD4陽性Tリンパ球数は、免疫状態の経過観察など医学的管理上は有益と考えられる     が、再現性や精度についての検討が不十分であり、サーベイランスの基準として採用す     ることは、当面、見合わせることが適当である。

   2)RNA定量法
    RNA定量法は、病態把握上重要であるが、サーベイランスのための診断基準に影響を     与えるものではない。

   3)ARCの診断基準
    ARCについての診断基準を設ける必要は、以下の理由により乏しい。
     ア  国際的な統一基準がない。
     イ  分類を多くしても臨床上、疫学上のメリットがない。
     ウ  治療法が進歩した状況にあっては、可逆的な一過性の状態であってサーベイラ         ンスの対象とする意義が少ない。

(2) 国際的基準との整合性
    欧米諸国においては、サーベイランスにエイズのみでなく、HIV感染症を加えようと言う    動きがみられるものの、エイズ診断基準を改正するという動きはみられない。我が国では    既にHIV感染症とエイズの両者の把握が行われていることから、我が国のサーベイランス    の方が先行しており、国際的には現在の我が国の診断基準を改正する必要性は認めら    れない。


(3) 現行診断基準の表記方法
    現行診断基準については、特に特徴的症状の記載が臨床上の観点からは十分に整理    がされていないなど、必ずしも活用しやすいものとなっていないとの意見が多く、表記上の
   整理が必要と考えられた。より明快な診断基準とすることは、医師がエイズ患者及び無
   症状病原体保有者を診断した場合は、7日以内にその者の年齢、性別その他厚生省令
   で定める事項を最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出ることを罰則を持っ
   て規定している感染症新法に基づくエイズ対策を進める上で必須のことである。また、診
   断基準の表記方法をわかりやすくすることにより、感染症新法に基づいて収集した情報
   を、エイズ動向委員会が1例ずつ診断基準に該当するかどうかを検討することなく、迅速
   に分析を行い、エイズの予防のための情報を積極的に公表することができるようになると
   考えられる。

(4)その他
    診断基準を変更する場合には、当然のことながら統計上の継続性について、留意する必
   要がある。

3 議論の方向性
    上記2の検討を踏まえ、現行の診断基準を見直した場合、治療等の開始の目安になる
   臨床的な基準ではなく、あくまで統計的にエイズの発生動向を分析するための基準である
   という基本性格を前提に、小委員会としては以下の結論に達した。 
   (1) 現行診断基準を大きく見直す具体的な必要性はないこと
   (2) 我が国においては、患者・感染者数の増加が継続しており、もはやエイズは一部の専
      門家によってのみ診断されるべき疾患といった時代から、一般の臨床医によって診
      断・治療が行われる疾患になりつつあり、このような観点から、今後の診断基準は一
      般臨床医にとっても、わかりやすい基準である必要があること
   (3) 一般の臨床医が診断基準に基づいて的確に診断を行い、報告することによって、エイ
      ズ動向委員会が発生動向の分析に力を注ぐことができ、ひいては、エイズ予防のた
      めの情報を積極的に公表することができるようになること
   (4) 統計上の継続性が問題にならない範囲で、国際基準との整合性を保つ必要があるこ
      と
   (5) 小児の診断基準については、今後も継続的に検討する必要があること

4 結論
    エイズ動向委員会としては、以上の小委員会の検討結果を踏まえ、現行の診断基準を 
   別紙の通り改訂することが適当と考える。なお、小委員会の議論に加えて、報告票上の無
   症候性キャリアとの記載をよりわかりやすくするためにHIV感染症の診断基準を加えてい
   る。


別紙 改訂診断基準

添付資料
・ 資料1  エイズ動向委員会及びエイズ診断基準の再検討に関する小委員会委員名簿
・ 資料2  小委員会における検討課題