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後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針(平成30年1月18日)

更新日:2018年8月13日

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)第十一条第一項の規定に基づき、後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針(平成二十四年厚生労働省告示第二十一号)の全部を次のように改正する。

平成三十年一月十八日
厚生労働省告示第九号
厚生労働大臣 加藤 勝信

 ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus。以下「HIV」という。)の感染が後天性免疫不全症候群(以下「エイズ」という。)の原因であり、正しい知識とそれに基づく個人個人の注意深い行動により、多くの場合、HIVの感染を予防することは可能である。HIVは血液又は体液に存在する。HIVの主要な感染経路は性行為による感染であり、性行為を行う全ての人に感染する危険性がある。また、その他の感染経路として、HIVに汚染された血液を介した感染、母子感染等がある。

 近年の抗HIV療法の進歩により、HIVに感染している者であってエイズを発症していない状態のもの(以下「感染者」という。)及びエイズ患者(以下「患者」という。)の予後は改善された。さらに、抗HIV療法は他人へHIVを感染させる危険性を減らすこと(Treatment as Prevention: T as P)が示されている。

 HIV感染症(HIVに感染している状態であってエイズを発症していないものをいう。以下同じ。)は慢性感染症であるが、近年の抗HIV療法の進歩により、感染者の予後が改善された結果、早期治療を開始した感染者は健常者と同等の生活を送ることができることとなった。一方で、感染者及び患者(以下「感染者等」という。)の高齢化に伴う合併症発症の危険性の増大及び療養の長期化に伴う費用負担の増加という新たな対応すべき課題が発生しているため、長期療養の環境整備等が必要となっている。

 日本におけるHIV感染症・エイズの発生動向については、国及び都道府県等(都道府県、保健所を設置する市及び特別区をいう。以下同じ。)が感染者等に関する情報を収集及び分析し、国民や医師等の医療関係者に対して情報を公表している調査(以下「エイズ発生動向調査」という。)によれば、エイズを発症した状態でHIVの感染が判明した者が、新規に感染が判明した感染者等の約三割を占めており、HIVの感染の早期発見に向けた更なる施策が必要である。

 HIVの主要な感染経路は性行為であることから、性に関する適切な意思決定及び行動選択に係る能力が形成過程にある青少年に対しては、心身の健康を育むための教育等の中で、性に関する重要な事柄の一つとして、HIVに関する知識の普及啓発を行うことが特に重要である。

 HIVは、男性間で性的接触を行う者(Men who have sex with men。以下「MSM」という。)、性風俗産業の従事者及び薬物乱用・依存者における感染が拡大する危険性が高いという特徴がある。我が国では、これらの人々を個別施策層(施策の実施において特別な配慮を必要とする人々をいう。以下同じ。)と位置付けている。現時点では、MSMが感染者等の過半数を占めており、特に重点的な配慮が必要である。具体的な個別施策層については、状況の変化に応じて適切な見直しがなされるべきである。

 HIV感染症・エイズについては、原因不明で有効な治療法が無く死に至る病であった時代の認識にとどまっている場合があり、また、個別施策層に属する人々が少数であることから、正確な知識の普及が阻害されている。その結果、感染者等の医療及び福祉を受ける権利が必ずしも尊重されていない。

 したがって、社会に対してHIV感染症・エイズに関する正確な知識を普及し、国民一人ひとりが感染者等に対する偏見及び差別を解消するとともに、国民が自らの健康の問題として感染予防を適切に行うことが重要である。

 本指針は、このような認識の下に、HIV感染症・エイズに応じた予防の総合的な推進を図るため、国、地方公共団体、医療関係者及び患者団体を含む非営利組織又は非政府組織(以下「NGO等」という。)が連携して取り組んでいくべき課題について、正しい知識の普及啓発及び教育並びに保健所等における検査・相談体制の充実等による発生の予防及びまん延の防止、感染者等に対する人権を尊重した良質かつ適切な医療の提供等の観点から新たな取組の方向性を示すことを目的とする。

 なお、本指針については、少なくとも五年ごとに再検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更していくものである。

第一 原因の究明

一 基本的考え方

 国及び都道府県等は、感染者等の人権及び個人の情報保護に十分に配慮した上で、国立感染症研究所、研究班(厚生労働科学研究費補助金等に関係する研究班をいう。以下同じ。)及びNGO等と協力し、感染者等に関する情報の収集に努め、感染の予防及び良質かつ適切な医療の提供を行うための施策を立案及び実行することが重要である。

二 エイズ発生動向調査の強化

 国及び都道府県等は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)に基づくエイズ発生動向調査の分析を引き続き強化するとともに、死亡原因を含む病状に変化を生じた事項に関する報告である任意報告についても、関係者に必要性を周知徹底し、その情報の分析を引き続き強化すべきである。なお、エイズ発生動向調査の分析に当たっては、地域差を考慮するとともに、感染者等に関する疫学調査・研究等の関連情報を収集することにより、エイズ発生動向調査を補完することが必要である。

 また、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、第一に感染者等が検査によりその感染を自覚し、第二に定期的に治療を受け、第三に他者に感染させない状態にまでウイルス量を低下させるという一連のプロセスをケアカスケードと称しており、感染者等を減らしていくためには、このケアカスケードの評価に資する疫学調査・研究等を継続的に実施する必要がある。

三 国際的な発生動向の把握

 国際交流が活発化し、多くの日本人が海外に長期間又は短期間滞在しているとともに、多くの外国人が訪日し、また日本国内に居住するようになった状況に鑑み、国は、研究班やNGO等と協力し、海外におけるHIV感染症・エイズの発生動向を把握し、日本への影響を事前に推定することが重要である。

四 エイズ発生動向調査等の結果等の公開及び提供

 国は、収集されたエイズ発生動向調査等の結果やその分析に関する情報を、多様な媒体を通じて、広く公開及び提供を行っていくことが重要である。

第二 発生の予防及びまん延の防止

一 基本的考え方

 国及び都道府県等は、現在における最大の感染経路が性行為であること、性感染症のり患とHIV感染症・エイズとの関係が緊密であること等を踏まえ、①性感染症に関する特定感染症予防指針(平成十二年厚生省告示第十五号)に基づき行われる施策とHIV感染症・エイズ対策とを連携させた施策、②コンドームの適切な使用を含めた正しい感染予防の知識の普及啓発、③地域の実情に即した検査・相談体制の充実並びに④仮にHIVに感染したとしても、早期発見及び早期治療を適切に行うことで、エイズの発症を防止し、他人へ感染させる危険性を大幅に低減できることについての普及啓発を中心とした予防対策を重点的かつ計画的に進めていくことが、HIV感染症・エイズの発生の予防及びまん延の防止のために重要である。都道府県等は、保健所をこれらの対策の中核と位置付けるとともに、所管地域における医療機関等からの情報を基に発生動向を正確に把握し、施策に反映するよう努めることが重要である。

 普及啓発及び教育においては特に、科学的根拠に基づく正しい知識に加え、保健所等における検査・相談の利用に係る情報、医療機関を受診する上で必要な情報等を周知することが重要である。

 また、普及啓発及び教育は、近年の発生動向を踏まえ、対象者の実情に応じて正確な情報と知識を、分かりやすい内容と効果的な媒体により提供する取組を強化することで、個人個人の行動がHIVに感染する危険性の低いもの又は無いものに変化すること(以下「行動変容」という。)を促進する必要がある。

 そのためには、家庭、地域、学校、職場等へ向けた普及啓発及び教育についても効果的に取り組み、行動変容を起こしやすくするような環境を醸成していくことが必要である。

二 普及啓発及び教育

  1. 教育機関等での普及啓発
     国及び都道府県等は、感染の危険にさらされている者のみならず、日本に在住する全ての人々に対して、感染に関する正しい知識を普及できるように、学校教育及び社会教育との連携を強化して、対象者に応じた効果的な教育資材の開発等により、具体的な普及啓発活動を支援するように努めることが重要である。
     また、知識及び経験を有する医療従事者は、普及啓発に携わる者に対する教育に積極的に協力する必要がある。
     さらに、青少年に対する教育等を行う際には、学校、家庭、地域コミュニティ及び青少年相互の連携・協力が重要であるとともに、青少年を取り巻く環境、青少年自身の性的指向や性に対する考え方等には多様性があるため、それぞれの特性に応じた教育等を行う必要がある。

  2. MSMに対する普及啓発
     感染者等の大半を占めるMSMに対する普及啓発においては、国及び都道府県等は、当事者、NGO等との連携を進めながら、取組を継続することに加え、これまでの方法では普及啓発が行き届いていない対象者を把握すること等を通じて、対象者の実情に応じた取組を強化していくことが重要である。

  3. 医療従事者等に対する教育

     医療・介護の現場では、標準感染予防策をとることが、感染制御の観点から重要である。国立研究開発法人国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター(以下「ACC」という。)は、医療従事者等に対する最新の知見の普及に当たって、中心的役割を担うとともに、国及び都道府県等は、ACC、地方ブロック拠点病院、中核拠点病院及びエイズ治療拠点病院との連携の下、全ての医療機関、介護施設等において感染者等への対応が可能となるよう、医療従事者等に対する教育を継続する必要がある。

  4. 関係機関との連携の強化

     厚生労働省は、具体的な普及啓発に係る事業を展開していく上で、文部科学省及び法務省と連携して、教育及び啓発体制を確立することが重要である。また、感染者等の人権に配慮しつつ、報道機関等を通じた積極的な広報活動を推進するとともに、保健所等の窓口に外国語で説明した冊子を備えておく等の取組を行い、旅行者や外国人への情報提供を充実させることが重要である。

三 検査・相談体制

  1. 保健所等における検査・相談体制

     国及び都道府県等は、保健所における無料の匿名による検査・相談をはじめ、地域の実情に即した検査・相談体制の充実を重点的かつ計画的に進めていくことが重要である。

     また、国は、都道府県等の取組を支援するため、検査・相談の実施方法に係る指針や手引等を作成するとともに、各種イベント等集客が多く見込まれる機会を利用すること等により、検査・相談の利用に係る情報の周知を図ることが重要である。

     都道府県等は、関係機関と連携し、受検者のうち希望する者に対しては、検査の前に相談の機会を設け、必要かつ十分な情報に基づく意思決定の上で検査を行うことが重要である。

     保健所等は、必要に応じてNGO等及び医療機関と連携し、個人情報の保護に配慮しつつ、医療機関への受診に確実につなげることが重要である。利便性の高い場所と夜間・休日等の時間帯に配慮した検査や迅速検査を実施するとともに、他の性感染症との同時検査、検査の外部委託等の検査の利用機会の拡大を促進するための取組を強化し、さらに、検査・相談を受けられる場所と時間帯等の周知を行うことが重要である。

     さらに、検査の結果、陽性であった者には、早期治療・発症予防の重要性を認識させるとともに、適切な相談及び医療機関への紹介による早期治療・発症予防の機会を提供し、医療機関への受診に確実につなげることが極めて重要である。一方、陰性であった者についても、感染症予防の重要性を啓発する機会として積極的に対応することが重要である。

     また、検査後においては、希望する者に対して、継続的な検査後の相談及び陽性者の支援のための相談を実施する等、相談体制の充実に向けた取組を強化することも重要である。

  2. 個別施策層に対する検査・相談体制

     国及び都道府県等は、引き続き、個別施策層に対して、人権や社会的背景に最大限配慮したきめ細かく効果的な検査・相談体制を、医療機関、NGO等と連携して、継続して構築する必要がある。

     特に、都道府県等は、感染者等や個別施策層に属する者に対しては、対象者の実情に応じて、検査・相談の利用の機会に関する情報提供に努めるなど検査を受けやすくするための特段の配慮が重要である。

     なお、薬物乱用・依存者については、薬物乱用防止の取組等、関係施策との連携強化について、併せて検討することが重要である。

  3. 郵送検査

     近年、郵送検査の利用数が増加しているが、郵送検査のみでは、HIVの感染の有無が確定するものではないため、国は、郵送検査の結果、更なる検査が必要とされた者を医療機関等への受診に確実につなげる方法等について検討する必要がある。

第三 医療の提供

一 基本的考え方

 国及び都道府県は、抗HIV療法の進歩による予後の改善に伴う感染者等の増加及び高齢化に対応するため、各種拠点病院の機能を明確化し、地域の実情に応じて、中核拠点病院、エイズ治療拠点病院と地域の病院等間の機能分担による診療連携の充実を図ることが重要である。また、都道府県における総合的な医療提供体制の整備を重点的かつ計画的に進めるとともに、感染者等が主体の良質かつ適切な医療が居住地で安心して受けられるような基盤作りを進めることが重要である。

二 医療機関でのHIV検査

 HIVの感染の早期発見に結び付く検査機会の拡大及び早期治療の開始のためには、医療機関において、HIV検査が適切かつ積極的に実施されることも重要である。医療従事者は、HIV感染症・エイズが疑われる者のみならず、性器クラミジア感染症、性器ヘルペス感染症、尖圭コンジローマ、梅毒、淋菌感染症、B型肝炎、アメーバ赤痢等の性感染症のり患が疑われる者に対して、HIV検査の実施を積極的に検討する必要がある。

三 総合的な医療体制の確保

  1. 早期治療導入の検討

     早期に感染者等へ適切な医療を提供することは、感染者等の予後を改善するとともに、二次感染防止の観点からも重要であることから、国は、感染者等の早期治療の開始及び治療継続を促進する仕組みの検討を進める必要がある。 

  2. 地域での包括的な医療体制の確保

     地域の感染者等の数及び医療資源の状況に応じ、エイズ治療拠点病院を中心とする包括的な診療体制を構築するためには、専門的医療と地域における保健医療サービス及び介護・福祉サービスとの連携等が必要であることから、国及び都道府県等は、地方ブロック拠点病院及び中核拠点病院に、HIV感染症・エイズに関して知見を有する看護師、医療ソーシャルワーカー等を配置し、各種保健医療サービス及び介護・福祉サービスとの連携を確保するための機能(以下「コーディネーション」という。)を拡充することが重要である。

     都道府県等は、中核拠点病院の設置する連絡協議会等と連携し、医師会、歯科医師会等の関係団体や患者団体の協力の下、中核拠点病院、エイズ治療拠点病院及び地域診療所等間の診療連携の充実を図ることが重要である。特に、感染者等に対する歯科診療及び透析医療の確保について、地方ブロック拠点病院及び中核拠点病院は、地域の実情に応じ、各種拠点病院と診療に協力する歯科診療所及び透析医療機関との連携体制の構築を図ることにより、感染者等へ滞りなく歯科診療や透析医療等を提供することが重要である。

  3. 診療科連携の強化

     HIV治療そのものの進展に伴い、結核、悪性腫瘍等の合併症や肝炎等の併発症を有する感染者等への治療及び抗HIV薬の投与に伴う有害事象等への対応が重要であることから、国は、引き続きこれらの治療等に関する対応を強化するべきである。そのためには、医療現場においてHIV治療を専門とする医療従事者を中心としつつ、関係する診療科及び部門間の連携を強化し、医療機関全体で対応できる体制を整備することが重要である。

     さらに、医療従事者は、医療を提供するに当たり、チーム医療の重要性を認識し、医療機関内外の専門家及び専門施設と連携を図り、心理的な支援、服薬指導等を含めた包括的な診療体制を構築する必要がある。

  4. 長期療養・在宅療養支援体制等の整備

     感染者等の療養期間の長期化に伴い、保健医療サービスと介護・福祉サービスとの連携等が重要になる中で、コーディネーションを担う看護師、医療ソーシャルワーカー等は介護サービスとの連携を確保することが重要である。また、感染者等の主体的な療養環境の選択を尊重するため、長期療養・在宅療養の感染者等を積極的に支える体制の整備を推進していくことも重要である。このため、国及び都道府県等は、具体的な症例に照らしつつ、感染者等の長期療養・在宅療養サービスの向上に配慮していくよう努めることが重要である。都道府県等にあっては、地域の実情に応じて、地方ブロック拠点病院及び中核拠点病院相互の連携によるコーディネーションの下、各種拠点病院と慢性期病院、介護サービス事業所等との連携体制の構築を図ることが重要である。

     感染者等が安心して治療を継続しながら生活を送るためには、生活相談等の支援が重要である。国及び都道府県等は、各種拠点病院と連携して、専門知識に基づく医療社会福祉相談(医療ソーシャルワーク)やピア・カウンセリング(感染者等や個別施策層の当事者による相互相談をいう。)等の研修の機会を拡大し、NGO等と連携した生活相談支援を推進することが重要である。また、感染者等及びその家族等の日常生活を支援するという観点から、その地域のNGO等との連携体制、社会資源の活用等についての情報の周知を進める必要がある。

四 医薬品の円滑な供給確保

 国は、感染者等が安心して医療を受けることができるよう、医薬品の円滑な供給を確保することが重要である。そのため、国内において医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)に基づく承認を受けているがHIVの感染又はその随伴症状に対する効能又は効果が認められていない医薬品の中で効果が期待される医薬品の医療上必要な適応拡大を行うとともに、海外で承認された医薬品がいち早く国内においても使用できるようにする等の措置を講じ、海外との格差を是正していくことが重要である。

五 外国人に対する保健医療サービスの提供

 外国人については、言語障壁及び文化的障壁があり、適切な保健医療サービスを受けていない可能性がある。このため、都道府県等は、外国人に対する保健医療サービスの提供に当たっては、保健医療サービス及び情報の提供に支障が生じることがないよう、医療従事者に対する研修を実施するとともに、NGO等と協力し、通訳等の確保による多言語での対応の充実が必要である。また、外国人への保健医療サービスの提供の状況等について、調査することも重要である。

六  十分な説明と同意に基づく医療の推進

 治療効果を高めるとともに、感染の拡大を抑制するためには、医療従事者は感染者等に対し、十分な説明を行い、理解を得るよう努めることが不可欠である。具体的には、医療従事者は医療を提供するに当たり、適切な服薬指導を含む十分な説明を行い、感染者等の理解が得られるよう継続的に努めることが重要である。説明の際には、感染者等の理解を助けるため、分かりやすい説明資料を用意すること等が望ましい。また、感染者等が主治医以外の医師の意見を聞き、自らの意思決定に役立てることも重要である。

七 人材の育成及び活用

 医療従事者が、感染者等に良質かつ適切な医療を提供するためには、HIVに関する教育及び研修を受け、多様な人間の性について理解し、対応できる人材を育成することが重要である。特に人材の育成については、ACCがその中心的役割を担うことが必要である。国及び都道府県等は、引き続き、医療従事者に対する研修を実施するとともに、中核拠点病院及びエイズ治療拠点病院のHIV治療の質の向上を図るため、ACC、地方ブロック拠点病院等による出張研修等により、効果的な研修となるよう支援することが重要である。また、地方ブロック拠点病院だけではなく、中核拠点病院においてもコーディネーションを担う看護師等を配置できるよう、看護師等への研修を強化することも重要である。

第四 研究開発の推進

一 基本的考え方

 国及び都道府県等は、感染者等への良質かつ適切な医療の提供等を充実していくため、感染の拡大の抑制やより良質かつ適切な医療の提供につながるような研究を行っていくべきである。特に、各種指針等の作成等のための研究は、国において優先的に考慮されるべきであり、研究の方向性を検討する際には、発生動向を踏まえ、各研究班からの研究成果を定期的に確認することが重要である。

 また、国は、長期的展望に立ち、継続性のある研究を推進するとともに、若手研究者の育成及び研究者の安定した研究継続のための環境整備を支援していく必要がある。

二 医薬品等の研究開発

 国は、ワクチン、HIV根治療法、抗HIV薬並びにゲノム医療を活用した治療法、診断法及び検査法の開発に向けた研究を強化するとともに、研究目標については戦略的に設定することが重要である。この場合、研究環境を充実させることが前提であり、そのためにも、関係各方面の若手の研究者の参入を促すことが重要である。

 また、HIV感染症・エイズの予防及びまん延の防止の方法として、HIVの感染の危険性が高い人々に対する抗HIV薬の曝露前予防投与が有用であることが、近年海外において報告されている。したがって、我が国においてもこれらの人々に対する曝露前予防投与を行うことが適当かどうかに関して研究を進める必要がある。

三 研究結果の評価及び公開

 国は、研究の充実を図るため、各種指針等を含む調査研究の結果については、学識者により客観的かつ的確に評価するとともに、研究結果については公開し、幅広く感染者等からの意見を聞き、参考とすべきである。

第五 国際的な連携

一 基本的考え方

 国は、政府間、研究者間及びNGO等間の情報交換の機会を拡大し、感染の予防、治療法の開発、感染者等の置かれた社会的状況等に関する国際的な情報交流を推進し、日本のHIV対策に活かしていくことが重要である。

二 国際的な感染拡大の抑制への貢献

 国は、世界保健機関、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)等への支援、日本独自の二国間保健医療協力分野における取組の強化等の国際貢献を推進すべきである。

三 国内施策のためのアジア諸国等との協力 

 厚生労働省は、有効な国内施策を講ずるためにも、諸外国における情報を、外務省等と連携しつつ収集するとともに、諸外国における感染の拡大の抑制や感染者等に対する適切な医療の提供が重要であることから、日本と人的交流が盛んなアジア諸国等に対し、外務省と連携を図りながら積極的な国際協力を進めることが重要である。

第六 人権の尊重

一 基本的考え方

 国及び都道府県等は、感染者等が医療・福祉のみならず就学・就労に際し不利益を被ることがないよう、医療機関、社会福祉施設、教育現場及び職場における偏見及び差別の発生を未然に防止するための十分な普及啓発を行うことが必要である。

二 偏見や差別の撤廃への努力

 感染者等の就学・就労や地域での社会活動等をはじめとする社会参加を促進することは、感染者等の個人の人権の尊重及び福利の向上だけでなく、社会全体におけるHIV感染症・エイズに関する正しい知識の啓発や感染者等に対する理解を深めることになる。特に、健康状態が良好である感染者等については、その処遇において他の健康な者と同様に扱うことが重要である。このため、厚生労働省は、文部科学省、法務省等の関係省庁や地方公共団体との連携を強化し、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成十二年法律第百四十七号)第七条に基づく人権教育・啓発に関する基本計画を踏まえた人権教育・啓発事業と連携し、感染者等に対する偏見や差別の撤廃のため、具体的な資料を活用しつつ正しい知識の普及啓発を行うことが重要である。

 特に、感染者等が安心して治療を継続しながら生活を送ることができるようにするためには、医療現場、学校、職場及び地域における偏見や差別の発生を未然に防止することが重要であり、NGO等と連携し、医療現場、学校、企業や地域社会等に対して広くHIV感染症への理解を深めるための人権啓発を推進するとともに、事例研究や相談窓口等に関する情報を提供することが必要である。

第七 施策の評価及び関係機関との連携

一 基本的考え方

 国は、継続的に研究班等から疫学情報及び統計情報を収集することで、本指針の改正に資する施策の評価が可能になるよう努める必要がある。

 また、都道府県等は、地域の実情に応じて、施策目標等を設定し、実施状況等を複数年にわたり評価するよう努める必要がある。

 さらに、国及び都道府県等が総合的なエイズ対策を実施するに当たっては、医療機関、研究班、NGO等との連携が重要である。

二 具体的な評価

 厚生労働省は、関係省庁間連絡会議の場等を活用し、関係省庁及び地方公共団体が講じている施策の実施状況等について定期的に報告、調整等を行うこと等により、総合的なエイズ対策を実施するべく、関係省庁の連携をより一層進める必要がある。

 国は、一般国民のHIV感染症・エイズに関する知識の状況を把握する調査等を実施し、普及啓発の施策の評価に活用する必要がある。

 また、都道府県等は、ブロック拠点病院等と連携して把握した地域の感染者等の疫学情報に基づいて、感染症予防計画等を策定すべきである。感染症予防計画等の策定又は見直しを行う際には、重点的かつ計画的に偏りなく進めるため、①正しい知識の普及啓発、②保健所等における検査・相談体制の充実及び③医療提供体制の確保等に関し、地域の実情に応じて施策目標等を設定し、実施状況等を複数年にわたり評価することが重要である。施策の目標等の設定に当たっては、基本的には、定量的な指標に基づくことが望まれるが、地域の実情及び施策の性質等に応じて、定性的な目標を設定することも考えられる。

 なお、国は、国や都道府県等が実施する施策の実施状況等をモニタリングし、その結果を定期的に情報提供するとともに、施策を評価し、必要に応じて改善する。感染者等の数が全国水準より高いなどの地域に対しては、所要の技術的助言等を行うことが求められる。また、研究班により得られた研究成果を引き続き研究や事業に活かすことができるよう、都道府県等、感染者等、医療関係者及びNGO等の関係者と定期的に意見を交換すべきである。


※ 過去の特定感染症予防指針(平成24年1月19日)はこちら

関連ファイル

後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針の全部改正について(PDF:120 KB)

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