ACC診断と治療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

HIV関連血小板減少性紫斑病(HIV-ITP)

Last updated: 2022-09-29

病因

  HIV-ITPはHIV感染に起因した骨髄における血小板産生低下に、抗血小板抗体を介した破末梢における破壊亢進が加わった複合的要因により発症すると推測されている。そのため、骨髄像では非HIVで見られる血小板減少性紫斑病(ITP)と同様の巨核球増加が観察されるのが典型的であるが、HIV進行期での発症例ではHIV感染自体による骨髄抑制が加わる事で正常~低形成像が見られる事も少なくない。
 HIV関連蛋白は血小板と免疫学的に交差反応を起こすとされ、本疾患の病態に関与していると考えられる。特にgp120/160と血小板表面gpⅡb/Ⅲaにはepitopeの相同性があり、抗Ⅲa抗体は血小板を破壊するとされる。

臨床像

 一般的に他のHIV関連疾患と比較して、CD4数が比較的保たれた時期(300- 600/μL)に、血小板のみの単独減少として発症することが多い。恐らくは数か月から年単位での血小板の緩徐低下を反映して、診断時に1万/μL前後の高度血小板減少の状態であっても、点状出血や皮下出血などの出血症状は少ないか、全く認めないことが多い。
 HIVの進行期に発症する場合もあり、進行期では汎血球減少を伴う事が多いため、高度の血小板減少がない場合にはHIV-ITPの存在を見逃すリスクがある。各血球数の動向に注意を払い、適切な治療介入時期を逸さない事が重要となる。
 ART開始後に免疫再構築症候群(IRIS)としてHIV-ITPを発症する症例も稀ながら存在する。当科で複数例経験しているが、自然発症のHIV-ITPと比較して血小板減少速度が各段に速い印象がある。

診断

 各種感染症検査、骨髄検査などで、二次性の要因が除外されてはじめてHIV-ITPの診断が可能となる。他の感染症や悪性腫瘍の合併、薬剤性血球減少(表1)などの除外が特に重要である。
 PA-IgGはHIV-ITP患者の多くで上昇が見られるが、特異性は低く診断的意義は少ない。

表1 HIV感染症患者における二次性血小板減少症の原因

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治療


①血小板数3万/μL以上

 血小板数約3万/μL以上で出血徴候のないHIV未治療感染者では、ARTが治療であり、ART開始で多くの症例で改善を認める。一般的に、血小板の改善は月単位で認められ、血小板数の回復までには数ヶ月程度を要する。ただし一部の症例では、先述のように免疫再構築症候群としてさらに血球減少が急速に減少する形で悪化する事もありうる点に留意する。

②血小板数3万/μL以下、出血症状を有する症例

 すでに出血を生じている症例や高度血小板減少例では、緊急対応として血小板輸血が行われるが、抗血小板抗体が存在するために輸血単独による血小板数の増加はあまり期待できない。血小板投与に先行あるいは同時にステロイドを投与し、後述の免疫グロブリン製剤の併用を考慮すべきである。臨床的に出血傾向がない場合でも血小板数が3万以下である場合には、更なる疾患進行により重篤な出血を生じるリスクがあり、一方でART開始後の血小板増加は数か月を要するため、血小板数や臨床症状により早急に血小板を増加させる必要がある場合には、高用量免疫グロブリン製剤(0.4g/kg/day, 4-5days)による治療が選択肢として考慮される。通常は投与後速やかに(多くは数日以内)血小板数の回復が得られるが、効果は3週間程度と一過性であり持続しないため、重篤な出血症状の予防や観血的処置が必要な場合に対する、ARTによる血小板数回復までの緊急避難的措置であると理解すべきである。グロブリン製剤では一部で無効例も存在するため、出血リスクの高い症例では、一度はグロブリン製剤投与による血小板増加の反応性を評価しておく事も検討して良い。
 ステロイド投与も有効であるが、副作用や更なる免疫不全の助長に注意が必要である。免疫グロブリン製剤を使用するほどの緊急性はないが、早急に血小板数を回復させる必要性がある場合に考慮すべき治療である。プレドニゾロン長期投与(1.0mg/kgで開始し数週毎に漸減しながら中止)および高用量デキサメサゾン内服(40mg/日, 4日間)ともに有効であるが、後者については、ステロイドの投与期間が短期間であるため、副作用の懸念が少ない事、再発時の再治療も可能な事から、当科ではこれを試みることが多くなっている。当科の経験例では臨床的にも効果は高いという印象を持っている。ただし、現時点ではHIV-ITPに対する確固たるエビデンスは確立しているとは言えない。

 



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