ACC診断と治療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

悪性リンパ腫

Last updated: 2022-09-29

病因

 HIV感染者では、非ホジキンリンパ腫(NHL)の頻度が非HIVの約200倍高くなることが知られており、ART以前の時代にはHIV感染者の約8%に発症するという報告もあった。ARTが広く行われるようになり多くの日和見疾患の予後は改善されたが、悪性リンパ腫はHIV感染が診断されていない患者の「いきなりエイズ」として、未だに頻度および致命率の高いエイズ関連合併症のひとつである。
 AIDS関連悪性リンパ腫の発症には、多くの因子が関係しているが、そのひとつとしてEBウイルス感染が挙げられる。

臨床像

 組織学的には大部分がB cell typeで、diffuse large cell typeが最も多く、diffuse immunoblastic type、Burkitt's type、Primary effusion lymphoma(PEL)が、そのほとんどを占める。
 AIDS関連悪性リンパ腫では、節外性病変の頻度が高いことが重要である。節外性病変としては、消化管病変、特に胃、骨髄、中枢神経の頻度が高い。

診断

 確定診断は組織診断による。病期診断(表1)のために、病歴聴取と身体所見、末梢血球検査、生化学・免疫検査、骨髄検査(生検、穿刺)、髄液検査、全身CT、PETまたはGaシンチグラフィーを行う。節外性病変の評価として、消化管内視鏡検査や頭部MRIによる全身精査が必要である。特に中枢神経浸潤病変は全体の約30%(自験例)と高頻度に認められる。化学療法の実施にあたっては、腎機能、肝機能、心・肺機能の評価、合併する日和見疾患、特にHBV感染の評価が重要である。

表1 病期分類:Ann Arbor分類Cotswold修正案

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治療

 エイズ関連リンパ腫に対する標準的レジメンは確立されていないが、基本的にHIV陰性例の治療をベースにレジメンが選択される。近年では、CD20陽性B細胞性リンパ腫に対しては、非HIV例と同様のrituximabを加えたR-CHOP療法、DA (dose-adjusted)-R-EPOCH療法が標準治療になりつつある(表3、図1)1,2)。R-CHOPはエイズ関連リンパ腫においても完全寛解率(50-70%)と良好な治療成績が報告されているが、まだ標準治療とはなっていない。rituximab投与によって日和見疾患のリスクが高まるため、特にCD4数の低値例では入念な日和見疾患対策が重要である。Burkitt lymphomaに対してはCODOX-M/IVACやCALGB-9251療法、Plasmablastic lymohomaに対してはCODOX-M/IVACやDA-R-EPOCH療法、Hodgkin lymphomaに対してはABCD療法が選択されることが多い。厚生労働省研究班より「HIV関連悪性リンパ腫 治療の手引き ver3.0」が出ているので参考にされたい1)
 ARTについては、多くの研究によって予後改善効果が証明されており、化学療法と積極的に併用すべきである(表4)3。AIDS指標疾患に代表される日和見疾患についても、化学療法と同時期にARTすることで、発症頻度を低くすることができると報告されている。ただし、骨髄抑制のあるAZTの使用は避け、特にプロテアーゼ阻害薬との薬物相互作用に十分な注意が必要である。特にリトナビルを含めARTはCYP3A4による相互作用が懸念されるため、化学療法の治療内容に影響を与えにくいインテグラーゼ阻害薬(RAL、DTG、BIC)をキードラッグに選択することが多い現状である。また、HBVとの重複感染例には、経過中に再活性化をモニターしつつ、テノフォビルを含むART選択(TAF/FTC)を行う。
 最大の予後不良因子はCD4低値である。また、何らかの理由でARTが実施できない場合も、予後不良である。International Prognostic Index(表5-7)5,6)は、AIDS関連悪性リンパ腫においても、予後の評価に有用とされている。特に、化学療法に伴う骨髄抑制により、治療経過中にCD4が50/μL以下に低下している場合は、日和見疾患の予防も含めて慎重な経過観察が必要となる。

表3 R-CHOP療法、DA-R-EPOCH療法

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図1 DLBCLを中心としたB細胞系リンパ腫の治療成績(R-CHOP vs DA-R-EPOCH)2)

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表4 全生存期間 Overall survival (pre-ART vs post-ART) 3)

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表5 International Prognostic Index (pre-ART vs post-ART) 3)

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表6  International Prognostic Index of Non-Hodgkin Lymphonaによる生存率 5)

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表7 CD20陽性活動性リンパ腫におけるリツキシマブ+CHOP治療成績 6)

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参考文献

1)HIV関連悪性リンパ腫 治療の手引き ver3.0, 日本エイズ学会誌 18(1), 92-104, 2016.
2)Dose-Adjusted EPOCH-R compared with R-CHOP as frontline therapy for diffuse large B-cell lymphoma: Clinical outcomes of the phase III intergroup trial alliance/CALGB 50303. J Clin Oncol. 2019; 37:1790.
3 )Optimizing treatment of HIV-associated lymphoma, Blood. 2019;134(17):1385.
4)Low-dose compared with standard-dose m-BACOD chemotherapy for non-Hodgkin’s lymphoma associated with human immunodeficiency virus infection. N Engl J Med 1997; 336:1641.
5)The International Non-Hodgkin’s Lymphoma Prognostic Factors Project. N Engl J Med 1993; 329:987.
6)Standard International Prognostic Index remains a valid predictor of outcome for patients with aggressive CD20+ B-cell lymphoma in the rituximab era. J Clin Oncol 2010; 28:2373.

 



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