ACC診断と治療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

ヒトパピローマウイルス感染症

Last updated: 2022-09-29

病原体

 ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus; 以下HPV)は接触感染(主に性行為)によって感染伝播する。DNAタイピングによって、子宮頚癌、肛門癌などの悪性腫瘍の原因となるhigh risk型(HPV16, 18他)と、尖圭コンジローマのような良性腫瘍の原因となるlow risk型(HPV6, 11他)に分けられる。子宮頚癌の90%以上は本ウイルス感染が関連しており、なかでも16型と18型は子宮頚癌の60-70%の原因となっていると考えられている。HIV感染者の高リスク集団であるMSMにおいては、肛門癌のリスクが高く、肛門癌の87%で16型と18型が関与していると報告されている1)

臨床像

 HPVが関与する疾患で、特に頻度が高いのは、尖圭コンジローマと子宮頚癌、肛門癌である。尖圭コンジローマは、肉眼的には、有茎性でカリフラワー状の発育を示し、性器周辺や口腔内(写真1)などに好発する良性腫瘍である。同じく良性の病変として、ボーエン様丘疹症がある。褐色の5mm程度の小隆起性病変が多発性に認められる。
 子宮頚癌の予後に、HIV感染がどのように関与しているかは不明な点が多いが、一般に、HIVとHPVの混合感染では、HPV持続感染率が高まり(図1)、HPV関連腫瘍の発症率を高めるといわれている。また、CD4数が低いほどHPV関連腫瘍の発生率が高まる。また、HIV感染MSMの肛門癌の頻度は、一般人口と比較して、著しく高いことが報告されており2)、肛門癌を始めとする子宮頸部以外のHPV関連癌についても留意する必要がある。

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写真1 口腔内HPV 関連腫瘍

 

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図1 国立国際医療研究センターにおける女性患者の子宮頚部HPV-PCR 陽性率と子宮頚部細胞診(2002 年)

 

診断

 診断のゴールドスタンダードは、腫瘍組織の病理学的検査である。得られた腫瘍組織からHPVを検出することも可能だが、一般的には行われない。子宮頚癌は、早期発見・早期治療がkeyであることから、女性HIV患者においては、6-12ヶ月毎に子宮頚癌検診(Pap smear)を行う必要がある。当院(国立国際医療研究センター)では、頚管粘液のHPV-PCRおよびDNAタイピング検査を実施し、リスクを評価して、個々の症例に適した検診間隔を設定している。high risk型HPV検出例や、進行したAIDS患者の場合には、より頻回にフォローを行っている。
 肛門癌の診断に関しても早期発見が重要であるが、現時点で、定まった早期診断・予防法は確立していない。米国では、子宮頸癌と同様のアプローチを肛門癌に対して実施するanal pap smearと拡大肛門鏡(high resolution anoscopy:HRA)による前癌病変の診断の有用性が一部の専門家によって報告されており、今後、エビデンスの集積に伴い肛門癌の新規の早期診断・予防法が確立する可能性があり、注目されている。

治療

 尖圭コンジローマに対しては、冷凍療法(液体窒素)などで、機械的に取り除く方法が一般的である。薬物療法としては、Imiquimod(ベセルナクリーム5%Ⓡ)がある。再発率が高いため、根気よく治療する必要がある。子宮頚癌に対しては、子宮頸部細胞診でASC-US(atypical squamous cells of undetermined significance)より悪性度の高い症例に対してコルポスコピーで組織生検を実施し、生検で高度異形成が認められた場合には円錐切除が行われる。以後は状況に応じて治療法が選択される。
 肛門癌の前癌病変に対する焼灼術の癌予防に関する大規模比較試験である米国のANCHOR studyの2022年6月の中間報告で、焼灼術により肛門癌の発生が57%予防されることが明らかとなり3)、焼灼術の有効性から同試験は早期中止となった。この結果を受けて、肛門癌の新たな予防法が確立する可能性があり、今後の動向が注目される。咽頭癌に関しては、確立された早期のスクリーニング方法は存在しない。

感染予防

世界的には男女ともにHPVワクチンの接種がHPV関連癌の予防のスタンダードである。現時点(2022年6月)では、女性に関して、9価HPVワクチンは定期接種の対象には含まれていないが、4価ワクチンは定期接種に含まれている。同4価ワクチンに関しては、男性への接種の適応が追加されたが、現時点で定期接種に男性は含まれていないのが現状である。

参考資料
1. Alemany L et al. Human papillomavirus DNA prevalence and type distribution in anal carcinomas worldwide Int J Cancer. 2015; 136: 98–107.
2. Clifford GM, et al.A meta-analysis of anal cancer incidence by risk group:Toward a unified anal cancer risk scale. Int J Cancer. 2021 Jan 1;148(1):38-47.
3. Palefsky JM, et al. Treatment of Anal High-Grade Squamous Intraepithelial Lesions to Prevent Anal Cancer. N Engl J Med. 2022 Jun 16;386(24):2273-2282.

 



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