I.総括研究報告

HIV感染症の治療に関する研究(治療ガイドラインを含む)

主任研究者:岡 慎一(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター 臨床研究開発部長)


研究要旨

HAART療法が可能になり5年目にはいるが、耐性ウイルスの出現や長期投与に伴う副作用など新たな問題点も生まれつつある。これらの雄問題点を解決しよりよいHIV感染症治療法確立を共通の目的として、班員相互の綿密な共同研究にて班研究を行った。班構成は、in vitro, ex vivo, in vivo, evaluationの4つの柱からなる。本年度は、新しい機序の新薬の開発や新たな免疫療法として計画的治療中断療法も始まった。また、薬剤血中濃度測定やsalgave therapyに関し全国からの相談が受けられるようにHome Pageも開設した。QoLの大規模全国調査も行われ、ガイドラインも迅速に改訂ができた。

分担研究者

満屋裕明:熊本大学医学部第二内科 教授
松岡雅雄:京都大学ウイルス研究所 教授
桑原 健:国立大阪病院薬剤部
滝口雅文:熊本大学エイズ学研究センター教授
安岡 彰:国立国際医療研究センターエイズ治療研究開発センター  医長
松下修三:熊本大学エイズ学研究センター 教授
西村浩一:京都桂病院呼吸器センター 部長
太田康男:東京大学医学部付属病院 助手
中村哲也:東京大学医科学研究所助 教授

以上10名

 

A. 研究目的

本研究班の目的は、よりよいHIV感染症治療法の発展及び開発をめざすところにある。

 

B. 研究方法

この目的のため、班を4部門(in vitro, ex vivo, in vivo, evaluation)に分け臨床研究及び臨床に密着した基礎研究を行っている。本年度は2年目であるため、昨年度からの進捗状況を合わせながら報告する。

(倫理面への配慮)
IL-2国際臨床試験(H11-J-95)、QoL調査(H12-27)、Lipodystrophy調査(H12-28, H13-40)、急性期患者に対するSTI臨床試験(H13-10)、NFV-HAARTの解析(H13-70)、耐性検査法の開発(H13-80)は、国立国際医療研究センターもしくは国立大阪病院の倫理委員会/受託審査委員会の承認を得た。国立国際医療研究センターにおける臨床研究は、すべて文書による同意を得ている。また、すべての研究結果において、個人が特定できるような情報は省いた。

 

C. 研究結果

1)in vitro(満屋、松岡): 昨年度は、満屋がCCR5 antagonist, 松岡が4'-RTIの治療薬としての可能性について検討してきた。今年度は、満屋らはさらにMIP-1αのantagonistの中から抗HIV-1作用の強いものを見いだした。現在ケモカインとしての活性を示さず抗ウイルス作用の強いものにつき検討を進めている。また、多剤耐性ウイルスにも抗ウイルス活性を示す新規PIを開発した。松岡は、昨年開発した4'-RTIの開発を更に進めたが、毒性の問題が残った。このため今年度は、この系列の薬剤の将来の可能性を考え、この系列の薬剤の作用機序及び耐性機序に関する検討を行った。新しい抗ウイルス薬としては、GP41結合ペプチドによるfusion inhibitorを見いだした。このペプチドは、既存のT20に対する耐性を示すウイルスに対しても抗HIV活性を示した。

2)ex vivo(原、滝口): v原は、日本人における種々の投与法における種々の薬剤血中濃度の検討を行った。また、全国のどの施設からでも血中濃度が測定できるように血中濃度依頼に関するHomePageを立ち上げた。斑の総括として岡は、PI6剤とEFVを同時に測定できる7剤同時測定計を完成させ、HPLCの使用できる施設に於いては自施設で血中濃度が測定できるようにした。滝口は、日本人に多い6種類のHLAに対する合計15のペプチドテトラマーを作成し、日本人の90%以上をカバーするライブラリーを作成した。この手法を用い、IL-2による免疫療法の患者におけるCTLを解析したが、IL-2投与によりわずかに増加したウイルスにCTLは鋭敏に反応していることを見いだした。

3)in vivo(岡、安岡、松下): Apheresis療法は、明確な有効性が見いだせず昨年度で中止した。IL-2療法に関しても、患者数の関係から分担研究者を中村から岡に変更した。間欠的IL-2投与は、予想以上のCD4の上昇と維持を見せた。最も先行している例では、予定の3クール終了後9ヶ月を経過した現在もCD4>1200を維持している。安岡は、初感染患者に対するSTI療法を開始したが、1年で19例の症例を登録した。先行する例では既に5回の計画的中断を終了し観察期間に入っている。現在までウイルスのリバウンドは見られていない。その他、いくつかの治療法に関するretrospective studyを行った。LPV/rを用いたsalvage療法中に新しい副作用として2例の重篤な不整脈を見い出し、健康被害情報として報告した。松下は、全国の患者数が少ない施設におけるsalvage療法をスムーズに行うために治療法相談のためのHomePageを立ち上げた。班の総括として岡は、salvage療法に入る患者の治療薬選択に有用な情報を与える新しいphenotypic resistance assayを開発した。また、松下は、HAART療法治療経過中のprovirus量に関する綿密な解析を行った。

4)evaluation(西村、太田、中村): 西村は、HAART療法により延命のみならず患者のQoLがどの程度改善したのかを継続調査している。今年度は、新たにFAHIの翻訳許可を得て全国の患者465人に対し本調査の妥当性の検討を行った。結果は、昨年行ったMQoL-HIVをほぼ同等の結果を得た。太田は昨年単独で、ガイドラインの作成を行ったが、量的に膨大であるため、発行に遅れを生じた。このため本年度は、中村も加わり、今年の改訂項目のうち、STIと母子感染を中村が、小児と薬剤情報を太田が分担し行なった。

 

D. 考察

本研究班の大きな特徴は、班の目的を達成するために個々の分担研究者同士の共同研究が盛んであることにある。例えば、in vitroグループは、お互いに情報を交換しながら研究を進めており、IL-2 studyは分担研究者の属する3施設が共同で行っている。また、免疫療法のIL-2やSTI療法の有効性はex vivo担当の滝口が担当している。QoLについては、ACCと全国8ブロックが共同で調査した全国規模のものである。in vitroグループの今年度の解析からRTIについては、開発が限界に達してきている可能性もある。今後はfusion inhibitorや耐性ウイルスに対する新しい機序のプロテアーゼ阻害薬の開発が進むと考えられる。ex vivoの滝口が現在作成しているテトラマーは、15種類にも及び、日本人の90%をカバーする。事実、今回IL-2試験の対象となった11名の患者の10名はCTLを検討することができた。in vivoの中で、今年度急性患者に対するSTIを開始したが、1年で19例も登録できたことは注目に値する。HAARTが行われるようになり、今年で5年を経過したことになる。ACCでの患者数も増加し、まとまった臨床データが集積されてきた。実際の外来におけるEFVやNFVの使用経験や高脂血漿や乳酸アシドーシスなどの副作用の報告は患者数の少ない施設にとっては参考になるデータと思われる。松下の研究で、salvageにならないための治療として、より強力な治療の必要性をリンパ球のターンオーバーを見ることにより証明していた。今後の新しい検査として有用である可能性がある。evaluationの中で、今年行ったQOL調査票のFAHIは昨年のMQoLHIVと同等以上の解析力であった。今後経時的な検査が必要である。ガイドラインは、本来エビデンスに基づくデータのみを扱うべきである。しかし、実際には日本人データもそろいつつあり、付録として添付していくのも実際の臨床の場では有用であろう。ガイドラインは米国でも頻繁に改訂され、量も膨大であるため、今年度は太田に加え中村もガイドライン作成にかかわることとした。

 

E. 結論

3年計画の2年目として、4つの柱それぞれが予定通りの成果を上げていると思われる。

 

F. 健康危険情報

本研究班にかかわるものはなし。 ただし、LPV/RTV使用時に発生した徐脈性不整脈についての副作用報告を行った。

 

G. 研究発表

別添

 

H. 知的財産権の出願・登録状況

なし