-カウンセリング体制の現状把握と充実に関する研究

グループ研究要約



グループ長: 兒玉憲一(広島大学保健管理センター)
班   員:

池上千寿子(ぷれいす東京)
山中京子(東京都衛生局医療福祉部エイズ対策室)
森田眞子(エイズ予防財団)
平林直次(東京医科大学病院)


 

A.研究目的

 本研究グループは、わが国のHIVカウンセリング体制の現状を的確に把握し、現在の問題点や今後の課題を明らかにし、学術研究及び行政施策上の提言を行うことをめざしている。1997年度から継続している3研究では、感染者や医療従事者によるカウンセリングを含む心理社会的サポート資源の有効を促すための調査研究を行い、本年度から開始した2研究では、精神症状を呈する感染者への精神医学的援助及びHIV抗体陽性献血者のカウンセリングに関して新たな調査研究を試みた。

B.研究方法

 感染者及びHIV診療を行っている医師を対象に、心理社会的なサポート資源に対する意識や利用行動や評価について質問表調査及び面接調査を行った(研究1,2)。各都道府県のエイズ行政担当者や臨床心理士会を対象に、HIVカウンセリング研修会の実施状況や献血者カウンセリングへの関与状況について質問票調査を行った(研究3,5)。また、HIV感染者の精神科受診の実態を診療録をもとに調査した(研究4)。献血者カウンセリングについては、先進的な取り組みをしている特定地域の事例研究を行った(研究5)。

C.研究成果

研究1:HIV陽性者に対する地域の支援及び陽性者によるサポート資源の活用について
(班員:池上千寿子)

  1. 研究の目的:陽性者の相談・援助活動において、個別的具体的なコーディネーター的機能がどのようなネットワークのどのような資源をどのように動員していくかを明らかにし、コーディネーター的機能のモデル化を試みることを目的とする。

  2. 研究方法:
    (調査1)
    あるNGO/CBOのHIV専門相談員による陽性者に対する相談活動記録を分析し、相談・援助及びコーディネーター的機能のモデル化を試みた。

    (調査2)
    陽性者8名に、告知後から現在までの資源の活用について面接調査し、資源活用の広がりについて時系列的に把握した。

  3. 研究結果と考察:
    (調査1)
    HIV専門相談員のコーディネーター的機能は、「資源導入型支援」、「クライアント参加型支援」、「伴走型支援」に分類できた。なお、活用する資源は、医療、行政、司法、さらには自助組織までさまざまな領域に及ぶので、コーディネーターは第三者的に陽性者本人の希望に添った資源導入を行うことが重要である。

    (調査2)
    陽性者8名を対象に、告知後から現在までの資源活用の内容と時期について面接調査を行い、その結果を時系列的に表す樹形図を開発した(図1-1)。さまざまな資源を活用できるケースと、限定的な資源しか導入しないケースに分かれたので、その要因として資源の地域格差、プライバシー侵害への不安、体調の変化が考察された。

研究2: HIV感染者・エイズ患者のための心理・社会的援助とカウンセリングに関する医師及び感染者の意識と利用に関する研究
(班員:山中京子)

[研究2-1]

  1. 研究の目的:昨年度の質問票調査で、「心理・社会的問題を抱えたHIV感染者を診察した経験がある」と答えた医師を対象に、カウンセラーを依頼した医師とそうでない医師で、医療への意識・評価、カウンセラーとの接触・学習経験についてそれぞれ統計的な差があるかどうかを検討し、医師の依頼行動を促進する要因を明らかにすることを目的とする。

  2. 研究対象と方法:対象となった医師100名のうち、専門カウンセラーへの依頼経験のある医師は70名、そうでない医師は30名であった。依頼行動を従属変数、医療への意識・評価に関する因子、及びカウンセリングとの接触・学習経験に関する因子を独立変数として判別分析をした。

  3. 結果と考察:医療への意識・評価に関する因子のうち、もっとも大きく影響する因子は「医療専念型の医師役割意識」であった。同じくカウンセリングとの接触・学習経験に関する因子のうち、もっとも大きく影響する因子は「直接的経験」であった。この結果から、医師対象の研修プログラムにカウンセラー活動を直接観察するプログラムが提案された。

[研究2−2]

  1. 研究の目的:HIV感染者によって地域の相談資源がどのように認知・利用され、どのような資源の利用が期待されているかを調査して、専門カウンセラー利用上の問題点を明確にすることを目的とする。

  2. 研究方法と対象:関東圏のHIV感染者に主治医経由で質問表を渡し郵送で回収した。

  3. 結果と考察:ほとんどの問題で医師、次いで看護職が相談資源として多く利用されていた。カウンセラーには「生きる意味や人生の振り返り」での相談が多く、ソーシャルワーカーには「医療費や生活費/経済的な問題」が多かった。

研究3:HIVカウンセリング体制の構築に関する研究
(班員:森田眞子)

  1. 研究の目的:現職の専門カウンセラーを高度に専門的なHIVカウンセラーとして養成するための現任研修のあり方を検討する。

  2. 研究方法:
    (調査1)
    各都道府県臨床心理士会の担当窓口を対象に、HIVカウンセリング研修事業に関する調査を実施した。

    (調査2)
    都道府県、政令市及び中核市の計94自治体のエイズ担当課を対象に、HIVカウンセリング研修会に関する調査を実施した。

  3. 研究結果と考察:
    (調査1)独自に研修会を開催する臨床心理士会は2割に過ぎず、全国規模の研修会に依存する傾向がある。感染が拡大するなか、都道府県臨床心理士会は職能団体として高度に専門的な研修機会を提供することが求められる。

    (調査2) 自治体の研修会は派遣カウンセラーなど現任の臨床心理士やソーシャルワーカー対象ではなく、主に医師・、看護職・保健婦にカウンセリング・マインドの習得をめざして行われていることがわかった。派遣カウンセラー事業の活性化を図るためには、事例の参加観察型研修を行うことが望ましい。

研究4:精神神経症状を呈するHIV感染者・エイズ患者に対する精神医学的診断・治療及び援助に関する研究
(班員:平林直次)

  1. 研究の目的:HIV感染者への精神科医療サービスの今後のあり方を検討するために、HIV感染者の精神科受診の実態を調査すること、及びHIV感染症が進行するとともに特定の病期あるいは免疫学的状態で高頻度に出現する精神障害を調査することである。

  2. 研究方法:都内拠点病院3施設を受診した感染者を対象に、精神科診断、受診理由、免疫学的指標(CD4陽性細胞数、HIV-RNA量)等をDSM−IVを用いて調査した。

  3. 研究結果:71例のDSM-IVにおる精神医学的診断内訳は、適応障害13例、(18.3%)、物質関連障害11例(15.5%)、気分障害10例(14.1%)であった。告知後10か月以内に適応障害を発症し精神科へ初診するリスクは、それ以降と比較して11.1倍高値と予測された。CD4数が100未満となると気質性精神障害が発症するリスクがそれ以上の場合に比べ15.3倍高値となると予測された。

研究5:献血者カウンセリング体制に関する予備的研究
(班員:兒玉 憲一

  1. 研究の目的:近い将来献血者のためのHIVカウンセリング体制が構築されることを想定して、1999年度に開始されたHTLV−1抗体陽性献血者への通知及び相談事業との比較をして、HIV専門カウンセラーと血液センターの連携のあり方を検討することである。

  2. 研究の方法:
    (調査研究1) 47都道府県臨床心理士会のHIV及びHTLV-1抗体陽性性献血者相談事業への関与及び協力状況を明らかにするために、質問票調査を行った。

    (調査研究2) HTLV-1抗体陽性献血者相談事業における血液センタースタッフと専門カウンセラーの連携のあり方をロールプレイング法で分析し、HIV抗体陽性献血者カウンセリングと比較検討した。

  3. 結果と考察:
    (調査研究1)
    回答した44都道府県臨床心理士会の半数が派遣カウンセラー事業に関与していたが、HIV及びHTLV-1抗体陽性献血者相談事業に協力しているのは1割前後に過ぎなかった。

    (調査研究2)
    血液センター及び保健所のスタッフ40名を対象に行われたロールプレイングをカウンセリングの観点から分析した結果、現行の方法は献血者ケアの視点からは問題が多いこと、とくに保健所スタッフは役割葛藤を生じることがわかった。