グループ研究要約

-STDクリニック受診者の性行動に関する研究-



STDクリニック受診者IIグループ
グループ長: 大里和久(大阪府立万代診療所)
グループ員:

丸山治朗(あべの橋医院)
大国 剛
(大国診療所
木原雅子(
カリフォルニア大学サンフランシスコ校エイズ予防研究所)

研究協力者:

川井和久(大阪府立万代診療所
前野二三代(あべの橋医院)
川崎千尋(横浜市立市民病院)
松林隆房(大阪府立万代診療所)
Kyung-Hee Choi(
カリフォルニア大学サンフランシスコ校エイズ予防研究所)



 

研究1:性交形態とコンドーム使用及びSTD感染リスクの分析

【 目的 】

 STDクリニック男性受診者の行動疫学的調査を実施し、行動変容に効果的なカウンセリングプログラムを、開発する。

【対象・方法】

 STDクリニックを1986年から1998年にかけて受診した男性10795人を対象に性活動に関する聞き取り調査を行ってきたが、今年度の研究では感染予防に不可欠なコンドームを取り上げ、種々の性行動でのコンドームの使用状況を明らかにするとともに、その感染予防効果、使用上での問題点などを探り、今後のコンドーム使用の効用と限界について検討を試みた。

【結果】

 聞き取り調査結果をまとめると膣性交は減少傾向にあり膣性交時のコンドーム使用は30%程度あるが、なお圧倒的多数は不使用である。一方、フェラチオは9割くらいが実行しているがフェラチオ時のコンドーム使用は皆無に近い。コンドーム使用のSTD感染予防効果をを調べるために、発症が早く自覚症状も強くて効果判定に最もふさわしい淋菌性尿道炎を指標疾患として、膣性交時、フェラチオ時におけるコンドーム使用の有無と患者数の変化を、STD非感染者の場合をコントロールとして比較検討した。

  1. 膣性交とフェラチオは同じ程度のリスクを持つ感染経路と見なされる。
  2. 膣性交とフェラチオを行う場合に、膣性交時にコンドームを用いると感染率は1/4に減少し、さらにフェラチオ時にも用いると1/6に減少する。
  3. 膣性交だけの場合はコンドームを使うと1/10に感染率が減少する。
  4. これらの変化は性交相手が親しい人、仮初めの人(主としてCSW)でも同じである

などが明らかになった。

【考察】

 STD感染の予防は即ちHIV感染予防であるとの観点からSTD感染予防に直接的に関係するコンドームについて、使用状況の経年変化を明らかにすると共に、淋菌性尿道炎を指標疾患として各種性行動時のコンドームの感染予防効果を検討した。
 近年は膣性交以上にフェラチオの実行率が高くなっているが、フェラチオはSTDの感染経路として膣成功と同程度の感染率を示すことが明らかになった。しかし、膣性交ではなるほどコンドーム使用は最近は30%台と以前に比べて8倍程度に増加しているが、フェラチオでは良くても6%とほとんど使用されていない現状である。
  現在最も多い性交形態はフェラチオを伴う膣性交であるが、コンドーム使用効果は、両行為に用いれば淋菌感染は約1/6に低下するが膣性交だけの使用では1/4止まりでありフェラチオがSTD感染に占める役割の大きさとフェラチオによる感染の予防の重要性があらためて認識される結果である。

 

研究2:STDクリニック受診者の性行動に関する横断調査

【 研究者 】

木原雅子(
カリフォルニア大学サンフランシスコ校エイズ予防研究所) 、木原正博(神奈川県立がんセンター)、熊本悦明(札幌医科大泌尿器科)、大里和久(大阪府立万代診療所)、丸山治朗(あべの橋医院)

【 研究協力者 】

札幌STD研究会、仙台STD研究会、広島STD研究会、福岡市STD研究会 他

【研究要旨】

 STD患者の性行動・セクシュアルネットワーク、コンドーム使用状況、HIV抗体検査の受検状況、エイズ関連知識・性意識などの実態を調査する目的で、札幌、仙台、東京、川崎、大阪、広島、福岡の7地域の21医療機関で、1119人のSTD患者を対象に自記式アンケート調査を実施した。その結果、以下の知見が明らかとなった(但し男性患者のみの解析)。

  1. リスク行動:過去1年間に5人以上の相手がいる人の割合(38.7%)(図1)、不定期の相手のいる人の割合(53.7%)、買春経験率(61.8%)は一般集団に比べ統計的に有意に高かった。
  2. コンドーム使用状況:相手や性行為の形態にかかわらずコンドームの毎回使用率は、一般集団に比べ統計的に有意に低かった。(金銭を介した相手との膣性交のコンドーム使用率:STD患者24.3%vs一般集団52.9%)(図2)
  3. 性モラル:一般集団に比べ、既婚者の不倫、恋人の不貞、売買春などすべての質問項目において、統計的に有意に高い容認度が認められた。
  4. HIV/STD関連知識に関しては、全ての質問項目で一般集団に比べ統計的に有意に高い正解率が観察された。
  5. HIV感染不安を感じた人は患者の約2割存在したが、実際にHIV抗体検査を受けた人は6%程度であった。以上の結果より、STD患者群に共通するリスク行動の実態、希薄なSTD予防意識、性モラルの偏り、セクシュアルネットワークの拡がりに関する情報が得られた。今後は、女性患者を対象とした全国規模の調査の必要性が強く示唆された。