(IDUグループ:要約版)

-薬物乱用・依存者におけるHIV感染の実態とハイリスク行動についての研究-



グループ長: 和田 清
(国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部)
班   員: 石橋正彦(十全病院)
伊波真理雄(東京足立病院)
前岡邦彦(瀬野川病院)
分島 徹(都立松沢病院)
研究協力者: 飯田信夫(回生病院)
岩井喜代仁ほかスタッフ(茨城ダルク)
岡島和夫(瀬野川病院)
尾崎 茂(精神保健研究所)
菊池周一(精神保健研究所)
黒木規臣(都立松沢病院)
高 直義(久米田病院)
小沼杏坪(国立下総療養所)
津久江一郎 (瀬野川病院)
中村亮介(都立松沢病院)
平井愼二(国立下総療養所)
藤原永徳(久米田病院)


【 目的 】

  薬物乱用・依存者におけるHIV感染を含めたSTD感染の実態を把握し、あわせて、注射器、注射針の使用実態、性行動等HIV感染に関わるハイリスク行動を調査することによって、薬物乱用・依存者に対するHIV対策に資することを目的とした。

 

【 方法 】

  研究は「1.精神科医療施設に入院した薬物依存・精神病患者調査」(以下、病院群)、「2.医療機関を受診していない薬物依存者調査」、「3.精神科医療施設に入院した外国人精神障害者調査」の3つから成っている。各研究においては、対象者の同意の下で、調査用紙によるハイリスク行動の聞き取り調査と採血による血清学的検査を実施した。

 

【 結果及び考察 】

  1. 上記すべての調査研究において、薬物乱用を原因とするHIV感染は認められなかった。
  2. しかし、「3.精神科医療施設に入院した外国人精神障害者調査」において、ケニアとミャンマーから来日した、それぞれ一人ずつにHIV感染が認められた。ともに感染経路は、薬物乱用ではなさそうだが、詳細不明であった。この調査では、毎年1〜2人のHIV感染者が確認されており、ハイリスク調査であることが再確認された。
  3. 病院群による、「覚せい剤」依存・精神病患者では、HCV抗体陽性率が43.2%と高く、86.7%の者にこれまでに注射よる薬物乱用の既往(以下、注射の既往)があり、この1年間でも71.1%の者に注射の既往があった。また、約60%のものにシリンジ/針のこれまでの共有経験があり、最近1年間に限っても、約40%弱の者にシリンジ/針の共有経験があった。しかも、「覚せい剤」依存・精神病患者は、「入れ墨」保有率も高く、HIV感染のハイリスク・グループと考えられる。
  4. 「2.医療機関を受診していない薬物依存者調査」による「覚せい剤」依存者のHCV抗体陽性率は48.6%であり、これまでの注射の既往率は88.6%で、病院群での「覚せい剤」依存・精神病患者よりも割合が高かった(それぞれ48.6:43.2、88.6:86.7)。これらの結果の多くは、昨年の結果と逆であるが、これは茨城DARCが、全国のDARCの中でも、その他のDARCに適応しにくい依存者が集まる傾向が強くなってきていることを反映していると推定できる。これはHIV、HCV感染の危険性が高い者が集まってくる傾向が強くなっていることを示唆している。最近1年間での注射既往率は65.7%で病院群の71.1%よりは低いが、この1年間でのシリンジ/針の共有経験率は、病院群の「覚せい剤」依存・精神病患者での約40%弱に比べて、約54%と高く、ハイリスクであることが示唆された。このことは、この集団が、良くも悪しくも「仲間」との結びつきが、病院群よりは強いことの反映と解釈され、「仲間」との結びつきの強さを、逆に、薬物依存からの脱却に活用することの重要性が示唆された。
  5. 以上、現時点では、わが国の薬物乱用・依存者はHIV感染の高感染率集団とはなっていないが、HCV感染率の高さは、HIV感染へのハイリスク・グループであることを示しており、今後も継続的な調査が必要である。

医療施設調査では、注射針の共有経験率が1999年に激減している。これは、「あぶり」の普及(下記表)による可能性があるが、今後数年間の動向を見る必要がある。

非医療施設では、注射針の共有経験率が1999年に増加しているが、これは対象グループが、全国のグループの中でも、その他のグループに適応しにくい依存者が集まる傾向が強くなってきていることを反映していると推定できる。これはHIV、HCV感染の危険性が高いものが集まってくる傾向が強くなってきていることを示唆している。

 

【 発表論文 】

Kiyoshi Wada, Sharyn Bowman Greberman, Kyohei Konuma, Shinji Hirai: HIV and HCV Infection among Drug Users in Japan. Addiction 94: 1063-1070,1999.