HIV感染症の医療費に関する研究
-医療に関する情報の解析グループの平成11年度報告-
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| グループ長: | 木村博和(横浜市立大学医学部公衆衛生学) |
| 班 員: | 木村 哲(東京大学大学院医学系研究科感染症内科) 岡 慎一(国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター) 市川誠一(神奈川県立衛生短期大学衛生技術科公衆衛生学研究室) 城所敏英(中野区保健衛生部保健計画課) 松山 裕(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専行) |
| 研究協力者: | 増田剛太(東京都立駒込病院感染症科) 相楽裕子(横浜市立市民病院感染症科) 坂本光男(横浜市立市民病院感染症科) 白阪琢磨(国立大阪病院臨床研究部ウイルス研究室) 岩本愛吉(東京大学医科学研究所付属病院) 伊藤 章(横浜市立大学医学部付属病院臨床検査部) 橋本修二(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専行) |
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A.研究目的
3年間の研究目的は、プロテアーゼ阻害薬の開発や多剤併用療法影響による非血友病HIV感染症の医療費への影響を調査することであった。本年度は4医療機関(関東3、近畿1)において医療費調査を実施し、平成7年の医療費調査の結果と比較することにより、治療方法の変化による影響を検討した。
B.研究方法
1.対象者と資料
本報告の分析対象者は、平成11年7月以降2医療機関を受診中のHIV感染症患者のうち、本調査への協力に書面で同意した59人(男58人、女1人)とした。本報告の調査期間は平成11年7月から12年1月までとした。 医療費に関する調査資料には、診療科目別の診療報酬明細書の写しまたはそれに準ずる各医療機関の会計カードを利用した。対象者の病状については主治医に聞き取り調査を行い、その他の情報は会計カードなどの記録を利用した。
2.医療費の推計
医療費は「国民医療費(厚生省大臣官房統計情報部編)の範囲」に準じた。診療行為別内訳は「社会医療診療行為別調査報告(厚生大臣官房統計情報部編)」の項目にしたがった。ただし入院医療費には入院時食事療養費を加算し、院外処方箋は処方の薬剤料を診療報酬額に加えた。
病期別の医療費(月額)は、調査期間中の最初の受診から最後の受診までの期間中の外来医療費と入院医療費の総合計値を観察月数で除して、総医療費(月額)とした。外来医療費(月額)も同様に算出した。
病期は観察開始時のCD4値と、AIDS発症の既往歴から4群に分類した。AIDS既往者は、AIDS群に、非発症者はAC1群(CD4値≧500)、AC2群(200≦CD4値<500)、AC3群(CD4値<200)に分けた。
抗HIV薬の服薬数別の医療費、ならびに受療時期(初診から調査時点までの経過期間)別の医療費は各月ごとの医療費を観察単位とした。 1995年の医療費調査(前回調査)に利用した資料のうち、病状、服薬状況、社会保険等の利用状況が明らかな40人の資料については、今回と同様の方法で医療費を算出し、今回の結果(1999年)と比較した。集計結果は中央値と四分点で表現した。
C.研究結果
1.病期別の医療費
病期別の総医療費(月額)をみると、AC−1群が169,000円、AC−2群217.000円、AC-3群246,000円、AIDS群208,000円であり、AIDS非発症群では病状悪化に伴い増加していた(図1)。内訳は外来投薬料がAIDS非発症群では83〜88%を、AIDS発症群では72%を占めていた。
1995年の病期別にみた総医療費(月額)は、各々8,000円、38,000円、100,000円、404,000円だった(図1)。内訳は、AC-1群では外来検査料が50%を、AC−2群とAC−3群では外来投薬料が約70%を、AIDS群では入院医療費が90%を占めていた。

2.服薬数別の医療費
AIDS非発症群での服薬数別の総医療費(月額)は、非服用群で27,000円、2剤併用群158,000円、3剤併用群214,000円、4剤併用群248,000円だった。AIDS既往者では、非服用群で16,000円、3剤併用群213,000円、4剤併用群231,000円であり、抗HIV薬の服薬数の増加に伴い医療費も増加した。しかしAIDS非発症群と既往者群の間にはほとんど差がなかった。
1995年のAIDS非発症者の総医療費(月額)は、非服用群で15,000円、1剤使用群77,000円、2剤併用群229,000円だったの対し、AIDS既往者群では、それぞれ531,000円、162,000円、923,000円ときわめて高額だった。
3.受療時期別の医療費
受療時期(初診から調査時点までの経過期間)別の総医療費(月額)は、AIDS非発症者では、1〜2ヶ月で115,000円、3〜5ヶ月166,000円、6〜11ヶ月194,000円、12〜23ヶ月204,000円、24ヶ月以上で216,000円と、経過とともに次第に増加した(図2)。
AIDS既往者では、1〜2ヶ月での341,000円がもっとも高く、その後は20万円程度で推移した。
1995年のAIDS非発症者では今回同様に次第に増加したが、金額はきわめて低かった。一方、AIDS既往者では、最初の0ヶ月以内の789,000円から減少して6〜11ヶ月で120,000円、その後24ヶ月以降の628,000円まで上昇した(図3)。
D.考察
今回調査の病期別の総医療費(月額)を1995年と比較すると、AIDS非発症群では102,000〜161,000円増加したが、AIDS群では逆に約200,000円減少した(図1)。
このAIDS非発症群での増加は、より早期での多剤併用療法の開始によると考えられた。
一方、AIDS群での減少は、対象者が外来通院者だったこと、入院治療が減少したことによる影響が考えられた。
受療時期別の医療費の推移は、1995年の場合と1999年では、初診から1年以降の経過が異なっていた。AIDS群は1995年、1999年とも初診時にAIDSと診断された症例であり、AIDS未発症者からの転症例は含まれていない。したがって1995年での初診から1年以後での上昇は、治療後軽快した症状が再び憎悪したことによる費用の増加と考えられる。1999年では全体としてこのようなU字型の傾向は認められない(図3)。したがってこの差異が多剤併用療法の普及に伴う予後の改善や病状の安定化による可能性は十分に考えられる。
今回分析対象にはAIDS発病時の医療費の資料は含まれていない。したがって今後、初診時にAIDSを発病した症例だけでなく、AIDS非発症者での転症例について調査することにより、多剤併用療法の普及による医療費への影響がより明白になると考えられた。
E.まとめ
抗HIV薬による多剤併用療法普及後のHIV感染症(血友病を除く)の医療費を調査し、1995年の医療費と比較することにより、多剤併用療法の医療費へ及ぼす影響について検討した。
AIDS非発症者では外来医療費を中心に月額169,000〜246,000円だった。またCD4値が低く、初診からの経過が長く、抗HIV薬服用数が多いほど高額だった。1995年(月額8,000〜104,000円)からは著しく増加した。
AIDS発症者では、既往者では月額115,000〜569,000円だった。1995年の初診時からの医療費の推移はU字型だった。
多剤併用療法の普及による病状の安定化や予後の改善に伴う入院医療費の減少の可能性が示唆された。

