国際疫学情報の解析に関する研究
-国際疫学情報解析グループ平成11年度報告‐



グループ長: 鎌倉光宏(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学・感染症クリニック)
班   員: 梅田珠実(国立感染症研究所国際協力室)
研究協力者:

山本太郎(長崎大学熱帯医学研究所国際社会環境学)
小松隆一(国立社会保障・人口問題研究所)
橋本修二(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専行
福富和夫(国立公衆衛生員特別研究員)
中村好一(自治医科大学公衆衛生学教室
松山 裕
(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専行)
城所敏英(中野区保健衛生部保健計画課)
木村博和(横浜市立大学医学部公衆衛生学)
市川誠一(神奈川県立衛生短期大学衛生技術科公衆衛生学研究室)
木原正博(神奈川県立がんセンター臨床研究所)
木村 哲(東京大学大学院医学系研究科感染症内科)

Bernard Schwartlander (The Joint United Nations Programme on HIV/AIDS)
Karen Stanecki Delay (Health Studies Branch, U.S. Bureau of the Census International Programs Center)
Gilles Poumerol (WHO-Western Pacific Regional Office)
Francois Hamers (European Center for the Epidemiological Monitoring of AIDS)
Mary O'Grady (Family Health International, USA)
Vadim V. Pokrovskiy (Russia AIDS Center)
Yi-Ming A. Chen (Institute of Public Health, National Yu-Ming University)
Yungoh Shin (School of Medicine, Kangwon National University)
Barry Evans (PHLS Center, United Kingdom)



 

A.研究目的

 本研究グループでは、(1)最近の世界におけるHIV/AIDSの流行の現状と動向を、資料の信頼性の地域格差を考慮しながら収集・検討すること。(2)海外におけるHIV流行の動向がわが国の動向にどのような影響を与えて来たか、特にわが国への流出入が多い国を対象として比較入手し易いデータを元に解析し、今後の国内の外国籍感染者・患者の動向を予測する情報を選択、整理すること。(3)サーベイランスデータがある程度揃っている一部の先進国との比較により、わが国の流行、とくに異性間性的接触を感染経路とする流行の特徴を明らかにし、予防対策に参考となる実態把握を行うこと。(4)WHO、UNAIDS等、関連国際機関が近年推奨している、サーベイランス指針あるいは流行把握の指標を紹介し、そのわが国の適用について考察すること。また、一部先進国のサーベイランスシステムについて、わが国のシステムの改善に役立つような情報を選択すること、などを主たる研究目的とした。

 

B.研究方法

(1)HIV感染の現状と今後の動向について、比較的最新の資料であること、他の研究においても引用されることが多いこと、その作成の一部に当研究グループ長も関与していることなどから、特に以下の資料を選び、検討した。

(2)上記資料のほか、CDC(米国)、PHLS Communicable Disease Surveillance Centre(英国)の定期刊行物の内容をインターネット上のwebsite情報も加えて解析し、異なる社会的背景、ハイリスク集団の影響を除外した場合のHIV/AIDSの動向を比較するため、異性間性的接触によるAIDSについて、日本人、英国白人、米国白人間の比較を行った。その際、HIV報告数は、実際の感染者数を必ずしも反映しないので、約10年前の感染状況の尺度としてエイズ患者数を比較に用いた。また、3剤併用療法によるエイズ発症抑制効果が英米のNational dataに現れ始めた1996年より後の年は対象とせず、感染初期から1996年までの増加傾向及び性差・年齢分布を比較した。

 

C.研究結果

 わが国の外国籍患者の過去の動向については、国内の南・東南アジア国籍HIV女性感染者とタイの年間の入国者と出国者との差が最も関連が深かった(図1,2)。また国内のラテンアメリカ国籍感染者の動向は、報告遅れなどを勘案するとブラジル国籍外国人登録者すうの動向と関連が深かった。
 異性間感染AIDS人口10万対患者数は、英米白人では1992年までに年々増加ののち横ばい隣1996年には減少に転じたが、一方、日本では、1990年代より増加傾向を示し、1994年~96年の増加が著しい。日本人の1996年異性間感染、AIDS人口10万対患者数は、英国白人の役3分の1、米国白人の約13分の1であり、(図3)、男性についてのみ比較すると、さらに英米との差は縮小した。
 異性間感染、AIDSの男女差は日本人6:3:1、英国白人1.2:1、米国白人1:2.5と、日本のみ男性に偏っていた。また、英米白人では30~34歳台にピークが見られ、20代の感染が多かったことが示唆されるが、日本人の年齢分布は、35~54歳にかけてなだらかな山を描いており、特に男性でこの傾向が著しく、30代後半以降に起きたと考えられる感染が約半数を占めている。(図4)。

 

D.考察

 国内の外国人感染者・患者の動向を限られた疫学資料で解析することには困難で、その解釈には慎重を要するが、過去の動向の解析結果からは、特定の国については年間の入国者数と出国者の差を算出し、報告漏れを考慮しながら今後の動向を推測することの有用性が示された。母国の各種集団の有病率の推移も引き続き観察することが重要である。
 感染拡大開始時期の差を考慮して、人口10万対患者数が同程度になった時点からの増加率をみると日本人、英国白人、米国白人の差は縮小したことから、英米の中でも社会・文化的背景の異なる集団を除外して比較すると、日本のみが異なる動向を示すとは言い難い。米国白人の異性間感染AIDSでは、ハイリスクパートナーからの感染が増加に大きく寄与していたが、日本人では、米国に比べIDUs、MSMなど感染効率の高い集団での顕著な感染増加が見られず、それらの集団からの異性間感染も少なかったことなどが米国より低いprevalenceで推移した主な理由と考えられた。また、日本人では、英国白人、米国白人に比べ、一般によりsexually activeと考えられる年齢層での感染が少なかったことも英米より患者数の少ない一因と考えられる。